パンの向う側

白い器展へお越しくださった皆さま、ありがとうございました。
会期中毎日、身体の芯まで冷えるような寒さでしたが、
展示へ足を運んでくださったことにとても励まされました。
清々しさや単一ではない白の複雑な色合いを感じてくださる方が多く、
寒い中でも開催した甲斐がありました。
私自身も真っ白で清らかな空間でゆっくり器のお話などできて、
冬の寒い日をゆったり部屋の中で過ごす時間の良さを感じています。


そして先週末はお休みをいただき、ありがとうございます。
白い器も加わり、今週末からまた常設展示でお待ちしています。



お店のお休みを頂いた日は、
「パンラボ」という冊子の発売に関連したトークショーに行きました。
http://panlabo.jugem.jp/?day=20120106
展覧会前のお休みは準備などでどうもバタバタしてしまうので、
展覧会の後器のことを忘れて外を眺める作業は貴重で、器のあれこれを考える手助けになります。
近所で時々通い、昨年は空音でもパンの出品をお願いした目白のパン屋・かいじゅう屋さんも参加されるので、
興味深くたのしみにしていました。


テーマの1つは去年の震災以降、
国産の作物が安全という考え方をがらりと変えなくてはならなくなった放射能の問題です。
微量のセシウムが検出されたという農家の上野長一さんと、その小麦を使うパン屋かいじゅう屋さんのお話。
(本当はルヴァンの創始者ピエールさんが加わる予定でしたが欠席。)
予想どおり答えのでないむずかしいものでした。


特別なパン好きならずとも、
皆それぞれお気に入りのパン屋やおいしいパン屋さんがあることでしょう。
きっとパン作りを丁寧にするお店ほど、小麦にもこだわりがあると思います。
信頼を寄せる農家さんの小麦から微量でもセシウムが検出されたら、
パン屋さんはどういう判断をするのか。
パンを作る人は食べる人の健康に少しでも害がある可能性を考え、農家さんとの関係を断つべきか。
かいじゅう屋さんは、酵母菌を育てる生地に同じ農家さんの小麦を使い続けているそうです。
天然酵母パンには欠かせない部分を別の小麦に託さないのは、
ひとえに農家さんへの信頼だと思いました。
どちらの決断をしてもパン屋さんの姿勢を非難することなどできません。
食べる人がどう捉えるかということだけですが、
私は週にほんの少ししか営業できないかいじゅう屋さんの
噛む程に素朴な味わいのあるパンが大好きで、
きっとこれからもかいじゅう屋さんのパンを食べ続けるのだと思います。


一方農家の上野さんはまだ有機農法が普及していない早い段階から、取り組まれてきたそうです。
今でこそ支持されている有機農法は、
農薬を使わず作物を世話しないなんて非常識だと周囲に理解されてなくて、
ご両親も非難されていた。
そんな中でも自然の力で少しでも安全なものを、と信念を持ってこれまで来たのに、
放射能の問題で自分の作る作物が食べる人へ害をおよぼすかもしれない作物に変わり、
信念が揺るがされてしまっている。
カラッと笑う上野さんの表情から出てくる言葉は重みがあって、複雑な気持ちが痛い程伝わってきました。
まっすぐな信念で作物を作ってこられた上野さんのコシヒカリを頂いてみよう。
同情なんかでなく、そう思いました。


パンの向うには農家さんとパン屋さんのいろいろな思いがあります。
食べ物や食材を選ぶ消費する人にしても、
大切な人のことを考えたら(特に小さい子供などがいたら)
少しでも害のありそうなものは食べさせたくないという思いや、
信念を持って頑張っている農家さんを応援したいという思い、
もっと根本的な対策がとられていないことへの憤りもあったり。
1つのことを選ぶ難しさが日常の中に入り込んでしまってるような気がします。


このイベントが終わっても何も解決はしていないけれど、
その先にあるものを思い描いてものを選ぶことを大切にしようと思いました。
もしかするとよい方を選んだつもりが予期しない方へ加担する事があるかもしれないけれど、
1つのものを選ぶことでつながる先が大切にしようと思えるものか描き続けられたら。
そして、それぞれが選択したものを理解しあえたらいいと思います。
そういう意味でも、今回のように立場の違う人が話し合える場がもっとあったらいいのに。


パンラボのブログでは、「カンパーニュは種」というルヴァン創始者ピエールさんのインタビューもおもしろいです。
ルヴァンのパンの複雑な味わいの原点がわかった気がします。
ライターさんのパンにまつわる人たちへの深い愛情も感じられます。
http://panlabo.jugem.jp/?day=20120209


書き始めたら短くまとめられないことはわかっていましたが、
トークショーの後ここで触れずにはいられませんでした。
長くて拙い文にお付き合いくださった方、ありがとうございました。


しばらく常設展示で皆さまに器をのんびりお届けしていくので、
かわりに毎週ブログを更新できたらと思っています。
皆さまインフルエンザなどに負けず、どうぞ冬のよきひと時を。


ではまた、お店やブログでお会いできるのをたのしみにしています。